「やるべきことは分かっている。だが、それを実行する力がない。」
地方の中小企業に関わっていると、経営者の口からしばしばこの言葉を耳にします。
人がいない。資金がない。時間もない。しかも、やれば必ず成果が出るという確信も持てない。こうした状況の中で、「事業再構築」「DX」「新規事業」「インバウンド対策」など、経済政策やコンサルタントが提案する“打ち手”に向き合う余力がないのが実態ではないでしょうか。
私はこのような構造的困難を前に、「いかに個社が頑張るか」という視点だけでは限界があると感じています。そこで重要なのが、「地域資源を束ね直し、地域で戦う」という視座です。
“地域資源経営”とは何か?
「地域資源経営」とは、単に地域のものを使って新商品を作るという表層的な話ではありません。
それは、経営の目的そのものを“地域という文脈”に再設定し直す行為です。
- 自社が地域の一部であるという前提に立ち、
- 地域に眠る資源(自然・文化・人・技術)を見直し、
- それを自社の事業と有機的に接続し、
- 地域に価値を残しながら、自社も成長していく。
これが、域資源経営の本質であると考えています。
それは、経営を閉じた活動から開かれた営みに変えるということでもあります。
地域資源と事業が“つながる”とき、何が起きるか
では、実際にこの「地域資源と自社事業の接続」がうまくいっている例をいくつか見てみましょう。
【燕三条(新潟県)×金属加工×産業観光】
金属加工の一大集積地である燕三条では、地域の職人技を体験できる「工場見学ツアー」や「ものづくり体験」を観光コンテンツとして整備しています。
海外のバイヤーや観光客にとっては、「日本の手仕事」をリアルに感じられる貴重な機会。ここでは、単なる製品の販売ではなく、「地域の技術文化」をパッケージにした体験提供が行われています。
【霧島(鹿児島県)×焼酎文化×地域回遊】
焼酎の名産地・霧島では、複数の焼酎蔵が連携して見学・試飲体験の受け入れを強化。地元の料理店、温泉施設とも組んで「焼酎のまち体験」として地域回遊型の観光を演出しています。
商品(焼酎)を買ってもらうだけでなく、背景にある文化や暮らしに触れてもらう設計です。
【南三陸ワイナリー(宮城県)×震災復興×食文化】
震災からの復興をきっかけに立ち上がった南三陸ワイナリーは、地元の農産物・魚介とともに楽しむ地域密着型のワイン体験を提供。被災地であることも含め、地域の歴史と現在をワインに“語らせる”というスタイルです。
「商品」ではなく、「地域の再生プロセス」そのものを届けています。
【真庭(岡山県)×森林資源×クラフトビール】
林業の町・真庭では、間伐材を燃料とした木質バイオマス活用と、地元の天然水を使ったクラフトビール製造を掛け合わせ、サステナブルな地域資源活用を体現しています。
地域資源と商品開発、観光、地域課題解決が一体化した好例です。
地域資源 × 自社ビジネスモデルの接続が鍵
これらの事例に共通しているのは、単なる「地産地消」ではなく、地域資源を“自社のビジネスモデルに再接続”している点です。
- 商品開発の源泉として
- 体験価値の素材として
- ブランドストーリーの土台として
- 地域の課題を解決する手段として
中小企業が地域資源を使うとは、「自社の商品・サービスを、地域の“意味”と接続し直すこと」。
これにより、他社では真似できない差別化された価値提供が可能になります。
地域資源経営を始めるための3つの問い
最後に、ごく普通の中小企業が“地域資源経営”に取り組む際に、自らに問いかけてみてほしいことを3つ挙げます。
- 「自社の周囲には、どんな地域資源があるだろうか?」
(自然・文化・人・素材・伝統など) - 「その資源を、自社の商品やサービス、ビジネスモデルにどうつなげられるか?」
(商品の素材、物語、体験設計、顧客との接点) - 「地域にとって、自社はどんな存在として価値を持てるか?」
(販売者なのか、翻訳者なのか、接続者なのか)
経営を、地域の中に開いていく
地域資源経営とは、単なる地域活性化のスローガンではありません。
それは、経営という行為を「地域という土壌の上で再定義する」実践です。
人口減少・人手不足・地場経済の縮小。私たちは、今までのやり方が通用しない時代に生きています。
だからこそ、“地域という面で戦う”という選択が、中小企業の持続的成長にとって不可欠になりつつあるのです。
問い直すべきは、あなたの会社が「何をつくっているか」ではなく、
「どこから意味を得て、それを誰に届けているか」です。
地域資源経営とは、そうした経営の原点を再び問い直す、もう一つの視座であると考えています。
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