経理はもう“経営の言語化機能”と捉えるべきではないか【第2回】

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経理を“FP&A”に進化させる視点とスキルセット

――定型処理から仮説と提案へ。経理が未来を語る存在になるために

前回の記事では、AI時代における経理の再定義として、「経理は経営の言語化装置である」という視点をご紹介しました。

記録や処理の役割から脱却し、経営の意志を翻訳・可視化し、意思決定に資する形でアウトプットする。そんな経理の未来像に触れさせていただきました。

今回はその続編として、「経理の進化形」としてFP&A(Financial Planning & Analysis)という考え方を起点に、実務的にどう育成していくかにフォーカスを当ててお話したいと思います。


「FP&A」とは、経理の進化形である

FP&Aとは、財務計画策定と財務分析を担う専門機能のこと。
予算策定、KPI設計、実績分析、将来予測、経営陣への提案など、単なる記録ではなく、“未来に向けて数字で語る”仕事です。

従来は大企業の財務部門に限られていましたが、AIやクラウドの進化によって「分析に時間を使える」環境が整った今、中小企業こそFP&A的な視点を経理に求めるべき時代が来ています。

なぜなら、社長の頭の中にしかなかった戦略を、数値で翻訳し、言葉で伝えられる存在こそが、意思決定の質を変えるからです。


従来型経理とFP&A型経理の違い(5つの観点)

① 視点の違い
・従来型経理:過去重視
・FP&A型経理:未来重視

② 役割の違い
・従来型経理:処理・記録
・FP&A型経理:仮説・分析・提案

③ 主語の違い
・従来型経理:数字(単体)
・FP&A型経理:経営(意志・戦略)

④ レポートのあり方
・従来型経理:実績報告
・FP&A型経理:意味づけ+改善提案

⑤ 経営会議での立ち位置
・従来型経理:報告係
・FP&A型経理:意見を持つ参謀


FP&A的視点に必要な3つの思考

このような役割へ経理を進化させるには、スキル以前に「見方」を変えることが大切です。
私が実務を通じて感じる、特に重要な3つの視点を挙げてみます。

① 仮説思考:数字に“意味”を問いかける力
・「この数字はなぜこうなったのか?」
・「この変化は一時的か、構造的か?」
単なる集計ではなく、「これは何を意味しているのか?」と問いを立てる力が、FP&A的経理の本質です。

② 経営ストーリーの理解:数字の“背景”を読む力
粗利率が改善した——その背景に営業戦略の転換があるのか、値付けの変更があるのか。
数字だけでなく、その“奥行き”を読み解く力が問われます。

③ 提案力:数字を“未来に活かす”力
「このままいくとどうなるか?」を考え、「ならば今、こういう手を打つべきではないか?」と未来に向けて語る視点。
これがあって初めて、経理は“報告者”から“提案者”へと変わります。


実務に落とす:「普通の経理社員」がFP&Aへ進化する第一歩

では、実際の職場ではどう育てていけばいいのか?
ここからはより具体的に、ミッション設計・権限と責任・必要スキルの観点から整理してみます。


Step1:与えるべき小さなミッション

・月次レポートで「1つのKPIに対する仮説コメント」を必ず添える
 例:「売上増はB商品のキャンペーン効果と推測」
・月次で「想定と異なる変化を3つ」拾い、原因を自分の言葉でまとめる
・営業や現場向けレポートに「一言コメント」を加えて、対話のきっかけをつくる

✅ ポイント:
いきなり“提案せよ”ではなく、「ひとつだけでよいから、自分の主語で語ること」が第一歩。


Step2:与えるべき小さな権限と責任

・KPIの改善提案
月に1つでよいので、「このKPIは改善できそう」と自分なりの提案を持たせる。
→ 経営を“測る”視点が養われる

・経営会議資料への注釈
「この数字、少し気になります」など、数字に対する問いや気づきを資料に添える。
→ 数字を対話の起点にする練習に

・BIツールやExcelレポートの視点追加提案
「この項目で切り口を変えると、もっと意味が見えるのでは」と提案させる。
→ 自ら“見せ方”を設計する体験に

✅ ポイント:
小さくても、“定義”や“構成”に関われる経験が、CFO的視点の起点になります。


Step3:必要なスキルセットと育成方法

・仮説力
「なぜこの数字が出たか?」を自分の言葉で説明できる力
→ 毎月「自分なりの見立て」を一文でレポートに書く習慣づけ

・可視化力
ExcelやBIツールで、伝えたいポイントを視覚的に整理できる力
→ 表やグラフを自作して発表してみる

・経営理解力
会社の戦略と自分の業務を接続する視点
→ 月1回、社長に「質問タイム」を5分だけでも設けると効果的

・対話力
営業・現場など、他部署と数字の意味を擦り合わせられる力
→ KPIを共有する簡単な打ち合わせに経理も同席してみる

✅ ポイント:
特別な研修でなく、日常業務の中で育てる設計が育成の鍵です。


最初の「語る」体験が、経理を変える

FP&A的な動きは、最初は不器用でも構いません。
大事なのは、「自分の仮説が、経営者や現場との対話のきっかけになった」という体験です。

その一歩が、“普通の経理社員”を“未来を語れる存在”へと変えていくのです。


🗓 次回予告

次回はこの流れをさらに進めて、「CFO的視点の鍛え方」について掘り下げていきます。
経理が“右腕”になるとはどういうことか。どんな視座が必要なのか。実務と人の成長のリアリティに迫ります。

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