― AI時代の経理進化論と、中小企業におけるCFO育成の必要性 ―
「経理」という役割に、今、静かに再定義の波が押し寄せています。
AI技術の進化は、記帳や仕訳、月次決算といった“処理”の自動化を一気に進めています。これまで時間を取られていた作業が、数クリックで終わるようになる一方で、「人が担うべき経理の本質的な仕事とは何か」が、より厳しく問われる時代に入りました。
私の結論はシンプルです。
経理は、もはや「記録係」ではなく、「経営の言語化機能」であるべきだ。
そして、テクノロジーを前提とすれば、すべての経理課員は「FP&A(財務計画・分析)」へと進化できるし、その先には“CFO”としての成長ルートが明確に拓ける。そう考えています。
経理の役割は「翻訳と問い直し」にシフトする
経営には、言語と非言語があります。社長の勘や現場の空気感といった非言語の意思決定を、組織的に伝達・共有するには、「言語化」が必要です。そしてその言語化を、さらに数値という形で可視化する——その機能こそが、経理の本質的な価値ではないでしょうか。
AIが処理を肩代わりする時代には、「この数字の背景に何があるか?」「どんな経営判断と連動しているか?」を問い直す力が、経理人材に強く求められます。
つまり、経理は「経営の意志」を翻訳し、数値として構造化し、経営にフィードバックを返す存在へと変わっていくべきなのです。
全員FP&A化構想:中小企業こそ目指すべき未来像
ここで私は、少し大胆な仮説を提示したいと思います。
「全ての経理課員をFP&Aにできる」という構想です。
FP&Aとは、Financial Planning & Analysisの略で、企業の予算策定、実績分析、経営意思決定支援を担う高度な財務部門の機能を指します。一見すると、大企業向けの話に思われがちですが、むしろ私は「中小企業こそFP&A的な思考と視点を持つ経理人材が必要」と考えています。
なぜなら、AIが経理の定型処理を代替していくこれからの時代において、
人が価値を発揮できるのは、「経営をどう見るか」「どう伝えるか」「どう判断するか」の部分に他ならないからです。
ここに人材育成のチャンスがあります。
従来であれば“決算整理が正確にできる人”が評価されていた経理部門において、“経営を数値で語れる人”“仮説を持ち、問いを立てられる人”が育っていく流れがあれば、それは自然とCFO候補の育成につながります。
中小企業の経営課題:「CFOが当たり前に育つ土壌」づくり
中小企業の経営における隠れた課題のひとつに、「右腕不在問題」があります。
社長の判断を支え、財務と戦略をつなぐ役割を担うCFO的存在が、なかなか育たない。あるいは、そもそもCFOの定義自体が社内で曖昧なままになっている。
この構造的な課題に対して、経理部門の再定義は一つの有力な解決策になります。
“経理”が“FP&A”になり、“FP&A”が“CFO候補”になる。
この進化の道筋を社内で当たり前にしていくことが、中小企業の持続的な成長、そして「社長一人でなんでも決めなければいけない経営」からの脱却につながっていくのです。
最初の一歩:問いを立てる経理へ
では、何から始めればよいか。私が実務でよく提案するのは、「経営者が月次で聞きたいことを、問いとして明示する」ことです。
たとえば:
- 今月の数字で、何が一番想定外だったか?
- 売上と粗利の“質の違い”はどこに出ているか?
- 未来に備えて、今仕込んでおくべき投資は何か?
これらの問いがあるだけで、経理の視点が「処理」から「分析と示唆」へと自然にシフトします。そしてその蓄積が、経理課員を「数字で経営を語れる存在」に育てていきます。
AIによって「経理の仕事がなくなる」のではなく、
AIによって「経理の価値が、経営と直結する」時代が始まっています。
その流れの中で、経理を“経営の言語化装置”と捉え直し、
FP&A、CFOへと育てていく土壌をつくること——それが、これからの中小企業経営において、本質的な競争力になると私は考えます。
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