CFO的視点の鍛え方
――数字を超えて「経営全体」を捉えるために
FP&A的な視点を持つ経理人材が育つと、
「過去を正確に記録する」役割から、「未来を語り、提案する」存在へと成長します。
次なるステージは、CFO的視点を持つことです。
すなわち、経営全体を俯瞰し、リスクと機会を見抜き、社長に対して「対話し、進言できる」存在になること。
今回は、中小企業において経理人材がCFO的な視座を持つために、どのような意識と訓練が必要かを、実務的な観点から整理していきます。
CFOとは「経営の通訳者」であり「未来の設計者」
CFOというと、「財務のスペシャリスト」と思われがちですが、本質はそれだけではありません。
私の定義するCFO像は、次の2つの役割を統合できる存在です。
① 経営の通訳者
・社長や経営陣のビジョンや戦略を、数字と言葉で組織に翻訳する
・外部(金融機関、投資家、関係者)にも、会社の意志をわかりやすく伝える
② 未来の設計者
・財務の視点から未来のリスクとチャンスを予測する
・「今何を仕込むべきか」を社長に提案する参謀役となる
CFO的視点とは、単に「数字を見る」だけではなく、
経営そのものを言語化し、未来に橋をかける力だと言えるでしょう。
CFO的視点を鍛える3つの柱
FP&A的な動きができるようになった経理社員が、さらにCFO的な視座へ成長するためには、以下の3つの柱が欠かせません。
① 「資金」と「人」の未来を読む視点
財務データだけでなく、人の動き(組織の成長・崩れ)に注目することがCFOの特徴です。
- 今の利益構造は「持続可能」か?
- キャッシュフローはどこで滞る可能性があるか?
- 人材の採用・育成が、収益モデルにどう影響するか?
こうした問いを常に自分に投げかけ、“未来の詰まり”を予測する癖をつけます。
② 経営の全体最適を意識する視点
部門別、施策別ではなく、会社全体のバランスを見る力が求められます。
- 目先の利益ではなく、会社の持続性・再投資余力をどう高めるか
- 売上拡大のためのリスク許容範囲をどう設定するか
- バックオフィス機能(経理、人事、情報管理)をどう強化すべきか
つまり、短期の最適化ではなく、長期の勝ち筋を描く視点が必要になります。
③ 社長と対話する力
CFOの最も重要な役割は、社長に「耳の痛い話」をできるかです。
- 「資金繰りのこの部分、少し危ないです」
- 「今の投資判断、リスク過大ではないでしょうか?」
- 「この人事戦略、キャッシュアウトを伴うリスクを伴っています」
こうした「言いにくい事実」を、感情的にならず、事実と仮説ベースで冷静に伝える訓練が不可欠です。
実務で鍛える:CFO視点トレーニングの具体策
理屈を理解するだけではCFO視点は育ちません。
日々の実務の中で、「鍛える設計」をすることが重要です。
✅ キャッシュフローマップを作成する
・会社の資金の流れを、毎月「見える化」する
・収入・支出・投資・借入返済の各ポイントで、リスクを想定する
→ キャッシュフローの流れを常に意識する習慣が身につきます。
✅ 未来の「危ない兆候」を3つ予測する訓練
・「もし売上が10%落ちたら、どこにボトルネックが出るか?」
・「人件費が急上昇した場合、どの施策を見直すべきか?」
→ 最悪シナリオを想定し、事前に準備できる体質を育てます。
✅ 経営会議で必ず「問い」を持ち込む
・「この投資、回収期間のシナリオは見えていますか?」
・「この成長戦略に必要な追加資本はどれくらいですか?」
→ 質問をすること自体が、経営の深い理解を促します。
経理社員がCFO視点を持つことのインパクト
中小企業にとって、CFOが当たり前に育つ土壌をつくることは、単なる組織強化ではありません。
それは「社長一人に依存しない経営」を実現する、未来への布石です。
- 社長が孤独に耐え続ける経営から
- 社長と対話し、提案し、伴走できる経営へ
その一歩を、経理部門から起こしていきましょう。
🗓 次回予告
次回はさらに踏み込み、
「FP&A型経理を組織で定着させるための制度設計」について考えていきます。
組織文化、評価制度、キャリアパス設計——。
「経理が進化し続ける会社」の条件とは何かに迫ります。
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